バイオインフォマティクス分野の高度なデータ解析プログラムをパッケージ化

「科学技術と人の営みとの調和」を理念に掲げるユーワークスは、様々な研究機関や大学等から依頼を受け、研究者のITパートナーとして総合的な支援を行っています。その支援の形は一様ではありません。必要に応じてシステムやアプリを開発することもあれば、それらの運用保守も担います。また複雑なデータ分析を行うこともあれば、今回のように研究成果のパッケージ化を支援することもあります。それを可能にしているのが、社内に在籍しているエンジニアの多くが大学院で専門領域を修め、高度な学術的バックグラウンドを有していることです。ITのスキルに留まらず、研究の思考プロセスへの深い理解があるからこそ、専門性の高い研究内容であってもその本質をスピーディーに咀嚼し、研究者の方々と深く対話することができます。今回ご紹介する黒木元大さんも、東京大学大学院(農学系)で研鑽を積んだ、研究経験を持つエンジニアの一人。入社6年目の今年は、国内有数の研究所から依頼を受け、バイオインフォマティクス(生命情報科学)領域におけるデータ解析プログラムのパッケージ化を支援しました。国内トップクラスの研究機関に当社が選ばれた経緯、核心となる技術、そして黒木さんが高い専門性を活かしてどのように研究の加速に貢献したのか、インタビューしました。

黒木 元大(くろき げんた)

株式会社ユーワークス 第二開発部 副部長

東京大学農学部・同大学院にて、微生物を用いて有害物質で汚染された自然環境を元に戻す「バイオレメディエーション」という技術を専門に研究。2021年ユーワークス入社。
現在は住宅・医療などの幅広い研究分野で開発・保守に携っている。

最先端のバイオ研究者のニーズに応える、ITパートナーとしての第一歩

まずは改めて、簡単に自己紹介をお願いします。

私は東京大学農学部および同大学院で、「バイオレメディエーション」を専門に研究していました。これは、微生物などの生物が持つ力を借りて、有害物質で汚染された自然環境を修復する環境技術です。ユーワークスには2021年に入社しました。当時はコロナ禍が始まったばかりの時期でしたが、いち早くリモートワークを導入するなど、合理的な働き方を先駆けて推進していた先進的な社風に魅力を感じたことが入社の決め手です。現在は第二開発部の副部長として、住宅、医療など、幅広い研究分野のお客様のITパートナーとして、開発や保守に取り組んでいます。

新規営業をきっかけに、国内トップクラスの研究機関との新たなお取引がスタートしました。黒木さんが担当を務められたこの案件の概要と、最初の経緯について教えてください。

新規営業でお声がけしたのがきっかけだったのですが、先方としてはこれまでに付き合いのなかった新しいITベンダーということもあり、最初は「まずは一度、試してみよう」というお試しの気持ちからのスタートだったと思います。ご依頼いただいた内容は、バイオインフォマティクス(生命情報科学)の領域において、研究チームが独自開発した高度なデータ解析プログラムをパッケージ化するというものでした。先生方は、公共データベースに集約されている、世界中の膨大な「RNA-Seq(RNAシーケンス)」データを活用し、生体内における特定の反応やリスクを高度に予測・解析するプログラムを独自に開発されていました。RNA-Seqによって得られる生命ビッグデータは非常に膨大かつ複雑で、それを扱う先生方の独自プログラムも極めて高度なものです。ただ、研究の現場で生まれた当該プログラムは、そのままでは他の多くの研究者がそれぞれのパソコン環境で円滑に利用するにはハードルが高い状態でした。そこで、世界中の研究者が手軽にインストールし、直感的に操作して研究に役立てられるよう、適切な形にパッケージ化する部分を、私が支援させていただくことになりました。

バイオの専門性を認められ、担当エンジニアに選ばれる

どのようにして黒木さんのバイオの専門性が認められ、担当エンジニアとして指名を受けるに至ったのでしょうか?

実は、この研究所様とは以前にも一度、お取引の機会を探っていたことがあったのですが、当時はまだ当社に実績がなかったこともあり、残念ながらその時はお力になることができませんでした。しかしその後、改めて当社からコンタクトをとらせていただいた際、先生から、ユーワークスに相談したい案件があるのだと、直々にご相談をいただくことができました。それが、先ほどお話ししたプログラムのパッケージ化の案件だったのです。

以前はお力になれなかった経緯があったにもかかわらず、なぜ先生は再びユーワークスにお声がけをしてくださったのでしょうか。

今回の件で先生からご相談をいただいた際、事前のメールの中で、バイオ領域の知識を持つエンジニアに担当してほしい、といった内容のご要望をいただいていたようです。実は、以前お力になれなかった案件の打ち合わせに私も同席させていただいており、先生とはすでに面識がありました。当時はお取引には至りませんでしたが、その際に私がバイオ領域のバックグラウンドを持っていることをお話ししていたため、それが今回のお声がけや、私を担当として選んでいただくきっかけに繋がったのではないかと思います。

つまり、実質的に黒木さんをご指名されたということですね。黒木さんの大学・大学院時代の研究は、先生の研究領域とかなり近いものだったのですか?

私の専門は微生物学でしたので、先生の専門領域とは学問としては異なります。ただ、研究を進める上で分子生物学やバイオインフォマティクスの知識も一定程度修めていましたので、最初のお打ち合わせの段階から、先生の研究内容について共通の言語で対話を進めることができました。大学院での本格的な研究経験があり、なおかつ生物学のバックグラウンドを有しているエンジニアというのは、IT業界全体で見てもそれほど多くはありません。専攻そのものは違っていても、研究のプロセスや作法を理解した上で深く対話ができたことが、少し安心感に繋がったのではないかと考えています。

分子生物学やバイオインフォマティクスの知識を持っていることは、今回の支援においてもやはり必要不可欠だったのでしょうか。

今回のプロジェクトにおいては、まさにその通りでした。高度な研究支援を行う上で、対象となる学問への基礎知識がなければ、「今どのようなことを実現しようとしているのか」という本質を捉えることが難しいためです。今回のケースでも、プロジェクトの全体像を把握するためには、先生からのレクチャーだけでなく、英語の論文をはじめとする専門的な資料を深く読み解く必要がありました。もし「RNA-Seq」といった前提となるキーワードすら知らない状態からスタートしていたら、研究内容を理解するだけで膨大な時間がかかってしまいます。研究の本質をエンジニアの側が正しく咀嚼できなければ、研究者の方々が真に求める形での支援やパッケージ化を実現することは難しかったと感じています。

プロジェクトの完遂と、学術論文への謝辞掲載

今回の案件を進めるにあたり、具体的にはどのような課題があり、どのような点に注力されたのでしょうか。

RNA-Seqデータの解析プログラムは、すでに先生方が構築されていました。そのため、その高度なロジックをいかに崩すことなく、誰もが安定して利用できる形へとパッケージ化できるかという点に最も注力しました。このフェーズにおいては、バイオ領域の知識というよりも、純粋なコーディング技術やソフトウェアエンジニアリングの知見が重要になります。ユーワークスは研究支援だけでなく、システム開発も数多く手がけており、私自身もこれまでに様々な分野での開発業務に携わってきたため、そこで培ってきた「実用に耐えうる堅牢なシステムを構築するノウハウ」が、今回大いに活きたと感じています。また、ツールの仕様や直感的なUI(操作画面)の設計については、先生方と密にディスカッションを重ねました。ご要望を丁寧に反映させるだけでなく、ITの専門家としての視点から、より使いやすくなるための改善案なども積極的に提案させていただきました。

開発段階で生物学の知識が活かされる場面はなかったのですか?

はい、まさに動作検証(テスト)の段階で大いに活かされました。プログラムが正しく機能しているかを確認するためには、入力したデータに対して適切な結果が出力されているかを細かく検証していく必要があります。しかし、RNA-Seqのデータ構造やその科学的な意味を理解していなければ、出力された解析結果が本当に正しいものなのかどうかを判断することすらできません。ただプログラムが動くだけでなく、研究用ツールとして確かな精度を担保するためのデータ検証をスムーズに行えたのは、やはり生物学のバックグラウンドがあったからこそだと実感しています。

プロジェクト完了後、先生方からの反響やその後の広がりはいかがでしたか?

ご要望であった「誰もがスムーズに導入でき、直感的に操作できるツール」として、無事に期限内にお届けすることができました。完成したプログラムはGitHubを通じて公開され、現在は世界中の研究者の方々が自由にダウンロードして活用できる状態になっています。先生方の研究室からも、「非常に扱いやすく、今後の研究のさらなる発展に大きく寄与してくれそうです」という大変有り難いお言葉をいただきました。さらに光栄なことに、この研究成果について先生方が発表された学術論文の「謝辞(Acknowledgements)」の中に、ユーワークスと私の名前を掲載していただいたのです。私たちの姿勢と技術力を深く認めていただけた証のようで、大きな励みになりました。有り難いことに、その後も同じ先生から新たな研究支援や開発のご依頼を継続していただいており、現在も私が主担当としてプロジェクトを推進しています。

研究の作法を知る仲間たちと、科学技術の発展を支える

今回のプロジェクトを振り返って、研究者を支援するユーワークスならではの特徴や強みをどのように感じましたか。

私たちの根底には、「科学技術と人の営みとの調和」という企業理念があり、これはどのようなお客様に対峙するときも変わらない一貫した姿勢です。その上で、今回のようなプロジェクトにおいて改めて実感したのは、社内に在籍するエンジニアたちの「バックグラウンドの確かさ」です。ユーワークスには、私以外にも大学院などの高等教育機関で研究に深く携わってきたエンジニアが数多く在籍しています。そうした経験を持つメンバーは、研究の思考プロセスや作法への深い理解があるため、必要に応じて英語論文などの専門資料から自発的に知識を補強していくことも容易です。そのため、たとえ自身の専攻とは異なる未知の領域であっても、スピーディーに本質を捉えて共通言語で対話することができます。これは、研究者の皆様のITパートナーを務める上で、ユーワークスならではの大きな強みだと考えています。

黒木さんご自身は、日々の業務に対してどのような想いで取り組まれていますか。

私自身は、先ほど挙げた理念の通り、お客様の業種や支援の形に関わらず、広く科学技術の力を通じて社会に貢献したいという想いを抱いています。今回のように自身の研究経験が直接活かされるのは確かに嬉しいことですが、それはあくまで一つのきっかけに過ぎません。自身の知的好奇心を満たすことよりも、お客様が真に求めている価値を提供し、ご満足いただくことこそが何よりも大切だと考えています。また、ユーワークスには「知性と感性を磨き、広い視野と行動力を備えた『頼もしい集団』を目指します」というもう一つの企業理念もあります。今回の経験を経て、私も一人のエンジニアとして少しずつキャリアを重ね、お客様に安心していただける「頼もしい集団」の一員へ近づくことができているのではないか、と感じています。これからも誠実に技術と向き合い、研究の発展を支えていきたいです。