「建築設計用気象データ」検索Webシステムのご紹介

概要

ユーワークスでは2022年7月に、建築設計関係者向けの気象データ取得Webシステム「建築設計用気象データ」を公開いたしました。建築物を設計する際には国土交通省が定めた建築物省エネ法に基づく省エネ性能を満たす必要があり、省エネ性能を算出するにあたっては建築場所固有の気象データが必須です。従来、各種気象データは気象庁のWebサイトで公表されてきましたが、省エネ性能算出に必須となる多種のデータを一括で取得することができず、気象データの取得・加工にかかるコストが課題となっていました。
この課題に応えるために当社が開発したのが、Webシステム「建築設計用気象データ(https://climate.archlab.jp/#/)」です。本システムを使えば、建築物の住所を入力するだけで自動的に気象庁のWebサイトからデータを収集・整理し、気温、降水量、絶対湿度、日射量、下向き大気放射といった9種類の気象データを一括で出力することができ、地域特性を考慮した建築設計が可能となります。システムは誰でも無料でアクセスできるWebサービスとして公開されており、業界初の試みとして好評いただいています。

本プロジェクトに取り組んだ背景

ユーワークスは創業期より、大学や研究施設をクライアントとした研究支援システムの開発に多数携わっています。なかでも国立研究開発法人 建築研究所とのお取引は10年以上にわたり、建築物のエネルギー消費性能に関する計算支援プログラムの開発などに深く関わってきました。
その経験の中で知ったことの一つが日本の建築物、とりわけ住宅のエネルギー消費量が高止まりしているという大きな社会課題です。この状況を改善するための取り組みの一環として、建築研究所は2022年7月、設計用気象データ作成ツール「ArcClimate」を発表。ユーワークスもこの開発に参画しました。ArcClimateは建築物省エネ法に対応した気象データを収集するプログラムであり、世界的なプラットフォーム「GitHub」で公開されていますが、あくまで最低限の機能だけを備えたオープンソースであり、このままでは一般ユーザーにとって使いやすいものではありません。このオープンソースをベースに、誰でも直感的に操作できるWebシステムとして機能・UI等を整備して公開したものが、「建築設計用気象データ」です。
「建築設計用気象データ」は利益を目的としたシステムではないため、誰でもいつでも無料で利用できるスタイルをとり、サイトには広告バナー等も一切表示しません。本システムが建築に携わる方々の業務に少しでも役立ち、建築物省エネルギーの一助となることが、当社の願いです。

スケジュール概要

2022年5月~7月にかけて、設計・実装・テストを実施いたしました。

本プロジェクトの主な課題と解決方法

課題建築設計関係者にとって使いやすい仕様の策定

「建築設計用気象データ」は建築研究所発表のオープンソース「ArcClimate」をベースに開発しており、気象データ収集に関わる基本的なプログラムはすでにオープンソースに含まれています。しかし、それらのデータを具体的にどのような形式で表示するかはWebシステム化する際に改めて考案する必要がありました。いかにして、ユーザーである建築設計関係者にとって使いやすいシステムに仕上げられるかが、本プロジェクトにおける最大の課題でした。

解決建築物省エネ法関連の業務経験を駆使し、現場目線の仕様を考案

ユーワークスには長年にわたって建築物省エネ法関連のシステム開発に携わってきた経験があり、日本の建築業界に関する知見も積極的に深めています。今回のプロジェクトでは、こうした建築業界への理解を活かしながら、「実際に建築設計をする人にとって必要な機能は何か?」を追求しました。たとえば「9種類の気象データのそれぞれを、折れ線グラフやレーダーチャートなど、どの形式で表示するのが最も合理的か」「風向をどのようなビジュアルで表現すればわかりやすいか」など、現場目線の使いやすさを考え抜き、現在の仕様に至っています。

【開発後の反響】

2022年9月現在、公開されてからまだ2ヶ月程度しか経っていないということもあり、本格的な評価はこれから問われることになるでしょう。某大手ゼネコンで環境性能に関わる業務に携わられている方からは、「必要な情報を無料ですぐに手に入れることができ、すごく助かっています。心から感謝いたします」という、とても嬉しいご感想をいただくことができました。

【本プロジェクトで活かされた当社の技術・知見】

国立研究開発法人 建築研究所との長年のお取引を通じて建築物省エネ法関連のシステム開発を手がけてきたことは、通常のソフトウェア企業にはないユーワークスの大きな特長です。この業務を通じて得た建築物省エネ法関連の知見と、日本の省エネルギーに対する課題意識から、本プロジェクトは生まれました。

【本プロジェクトの今後の展開】

「建築設計用気象データ」はまだ新しいシステムです。機能面の課題はもちろん、実際に建築業界でどの程度のニーズがあるのかというマーケティング的な課題も、今後徐々に明らかになるでしょう。ユーザーの声に応じて機能改善をおこない、引き続き建築物の省エネ性能に携わる多くの方の役に立つシステムを目指していきます。また、このシステムのベースとなった「ArcClimate」はオープンソースとして公開されていますので、これを元に「建築設計用気象データ」よりもさらに使いやすいWebシステムを作る企業やエンジニアが現れることにも期待しています。本プロジェクトがきっかけで、日本における建築物の省エネルギーに対する意識が少しでも高まれば、それ以上に嬉しいことはありません。

【建築設計関係者および建築物省エネ研究者の方々へ】

ユーワークスはこれからも、建築物の省エネルギー促進を目的としたシステム開発を続けていきます。これまでは官公庁・公共機関からの受託開発が主事業でしたが、今後は「建築設計用気象データ」に続く自社オリジナルシステムの開発や、民間の建築会社等からのご要望にお応えするかたちでのシステム開発にも取り組んでいきたいと考えています。とりわけ民間の建築関連企業のリアルな声は、省エネルギーを推進する上で貴重かつ不可欠な情報です。「建築物の省エネルギー+ITシステム」にかかわる課題やご要望についてなら何でも歓迎しますので、お気軽にご相談ください。