研究者と開発者の不思議な関係?
インターネット時代の夜明けを前に、出会った二人
担当の宇田と、今では家族ぐるみの付き合いをさせていただいている食品総合研究所の杉山さん。出会いのきっかけは、宇田が筑波大学の学生だった頃までさかのぼります。杉山さんが、研究をサポートしてくれる学生をインターネットで探していた時に、個人のホームページで自作のプログラムを公開していたのが宇田でした。そこから、10年以上の長い付き合いがはじまることになります。 当時、二人が研究・開発に携わったのが、今の青果ネットカタログ「SEICA」の前身のシステムです。「SEICA」は、農産物一品ごとの情報を検索・閲覧できるWebシステム。2000年前後は、インターネットの普及率もまだまだ低い時代。インターネットへの周囲の理解も低かったため、その研究もまったく注目されずにいました。しかし、かつてアメリカでインターネットの黎明期を眼にし、「これはすごい時代が来るぞ」と確信を得ていた杉山さんに迷いはなかったそうです。
最初に求めたのは「インターネットの可能性」
今でこそ食の安心・安全が注目され、食品のトレーサビリティなどという言葉もありますが、当時は社会的にはほとんど関心の無い時代。食品の偽装問題も、BSE問題も発生する前の話です。驚くことに、当時「SEICA」を開発していた杉山さん自身も、食の安全・安心に関するシステムに注力しているという自覚はなく、純粋にインターネットを使った新技術を追求したいという研究心のみだったそうです。研究初期のシステムは、近所のスーパーにお願いして端末を置かせてもらい、山形の農家から送られてくるだだちゃ豆に貼り付けたバーコードを読み込んで生産履歴情報をその場で確認できるものでした。十分なIT機器やネットワーク環境もない時代だったので、毎日のデータ更新は、スーパーが開店する前に駆けつけて、その場でフロッピーディスクからデータを書き換えていたそうです。
一大プロジェクトに成長してからも続く両者の関係
プロジェクトがスタートして間もなく食の安全を揺るがす社会的な事件が重なり、システムに対する期待も飛躍的に高まりました。システムのリリース後にはさらなる社会の注目を集め、重要性が認識されはじめると、研究予算も確保されるようになりました。急速に大きなプロジェクトに成長するとともに、それまで長い時間にわたってコミュニケーションを繰り返しながら研究・開発を行ってきた宇田も、プロジェクトの中心メンバーとなっていきました。開発にあたっては、いち早くWebAPIを取り入れ、今では当たり前になっているCMSのように簡単にホームページを更新できる機能を搭載していました。つねに時代の一歩先の技術を取り入れながら開発を行うのが、宇田の担当するプロジェクトのこだわりにもなっています。
「楽しい開発を一緒にしたい」という関係はこれからも続く
行政機関からのオーダーは、それを形にするために、法律などへの深い理解が必要なケースが多くあります。どんなシステムを組み立てるかを決めるのは本来であれば発注者側、つまり行政側の作業。しかし、実際のところ、法律を読み解きシステムの仕様を決めることができる能力のある技術者は少ないそうです。宇田が評価いただいている理由はそんなところにもあるようで、仕様書に固執せず、法律を理解し、どのような仕様にしたら良いか検討し「こういうデータベース構造にすればできますよ」と提案できる人材だということ。「そんなエンジニアは、ほとんどいない」という評価の言葉までいただきました。杉山さんにとって、宇田は、開発業者というより楽しい開発があれば、一緒にやれればいいなぁ」という関係なのだとか。これからも、研究者と開発者という垣根を越えた良い関係が長く続きそうです。
取材を終えて、わたしたちが感じた事
この取材で印象深かったのは、なんといっても杉山さんと宇田の10年以上にわたる付き合いからにじみ出てくる信頼関係がとても強く厚いものだということ。所属の垣根も年の差もこえて、いわば「仲間同士」とでも呼べる関係が築き上げられているのが、あらためてよくわかりました。
独立行政法人農業・商品産業技術総合研究機構 食品研究所 上席研究員 杉山 純一さま
食品総合研究所にて計測情報工学に関する研究を専門に行う研究員。自らのアメリカでの体験をもとに、Webベースの農産物トレーサビリティ・システム「青果ネットカタログ」を開発。
(2012年10月23日現在)