リモート生体情報マルチモニター「VIMMS」開発プロジェクト

概要

ユーワークスでは2017年より、株式会社フジタ医科器械様と共同で、Androidタブレットを表示機器とした生体情報マルチモニター「VIMMS」の開発に取り組んできました。パルスオキシメータ、血圧計、心電計という三種類の測定器を人体に取り付け、これらの機器が計測したデータをBluetooth(BLE)でAndroidタブレットに送信、指定されたサーバに保存するシステムです。
測定された三種の生体情報はWebアプリ上でリアルタイムに観察でき、さらに過去の履歴の閲覧も可能。「医療従事者は遠隔地から患者の健康状態をリアルタイムで確認できる」「安価で携帯性の高いAndroid端末で使用できる」という2つのメリットから、在宅医療、救急医療、災害現場での医療活動などに広く貢献すると期待されています。当社はAndroidアプリケーションの企画、設計、開発・テストまですべてを担当し、無事に納品しました。2022年8月現在、本格リリースに向けた最終段階に入っています。

スケジュール概要

2016年
医工連携イベントにて、医療機器メーカー・株式会社フジタ医科機械様とユーワークスとの間でマッチングがおこなわれる
2017年2月
生体情報マルチモニター「VIMMS」の開発がスタート。
2018~2022年
およそ1年ごとに、試作品の完成とブラッシュアップを重ねる
2022年8月
テストまで完了。リリースに向けて最終調整中

本プロジェクトの主な課題と解決方法

課題①複数機器とのBLE通信技術の実現

VIMMSではパルスオキシメータ、血圧計、心電計という三種類の計測器とAndroidタブレットとを無線接続するために、BLE(Bluetooth Low Energy)を使用します。BLEとは無線通信技術Bluetoothの拡張仕様の一つであり、低電力での通信を可能とするもの。しかしBLEを使用して複数の機器と同時接続をおこなう技術は国内でも事例がまだ少ない、希少性の高い技術でした。

解決医工連携開発とAndroidアプリ開発の経験値を発揮

ユーワークスはいちはやく医工連携に乗り出した数少ない中小IT企業の一つであり、Androidアプリ開発に習熟したエンジニアも在籍しています。これらの経験・知見を活かし、前例の少ないBLE通信機能を搭載したAndroidアプリ開発を無事遂行することができました。

課題②不完全な無線通信から心拍数を算出する技術的困難さ

VIMMSには、心電計の波形をもとにリアルタイムで心拍数を算出・表示する機能があります。心電計は秒間100データをBLEで送信しますが、無心通信の特性上、数%はパケットロスが発生することを避けられません。パケットロスが発生すると一時的に実際よりも低い心拍数が算出されてしまい、観察者の混乱を招いてしまいます。いかにデータの欠落を許容しつつ、心拍数を一定の精度で算出するかが、開発上の大きな課題となりました。

解決心拍数算出アルゴリズムの調査・実装

心拍数を算出するためのアルゴリズムは海外を中心に複数発表されており、当社エンジニアはこれらのアルゴリズムを元にアプリを実装してテストすることを繰り返しました。アルゴリズムは英語の論文形式で発表されたものであり、数式も多く含むため、これを解析して正しく実装するためには数学を含むアルゴリズム解析力や英文読解力が必要。さらに完成したシステムを評価するためには、臨床現場で医療従事者が使用することを十分に想定した検証能力も必要です。当社エンジニアは研究者レベルの情報工学の知識と論文読解力、医療機器ソフト開発実績を活かし、これらの課題をクリア。今回のシステムに最適なアルゴリズムを選定し、実装することができました。通信データの欠落はデータから除外し、欠落が大きすぎる場合には一時的に心拍数算出を中断することで、観察者に混乱を与えない仕様を実現しました。

課題③医療機器ソフトウェアとして認証をパスするための文書作成

医療機器ソフトウェアを開発する場合には、ISO14971(リスクマネジメント)、IEC62366-1(ユーザビリティ)、JIS-T2304(ソフトウェア開発プロセス)などの規格に準拠するために、様々な文書を作成する必要があります。しかし、これらのルールは2014年に医薬品医療機器等法が施行されて以降のものであり、本プロジェクトが開始した2017年当時はこうした文書の作成事例も極めて少なく、書類の作成には相応の知識と緻密さが要求されました。

解決医療機器開発実績を踏まえた、規格文書の徹底した読み込み

ユーワークスは医工連携にいち早く取り組んでいたため、認証関連の一定の知見がすでにあり、これらの文書作成をスムーズにおこなうことができました。とはいえ、国内での事例がまだまだ少ない状況での作業ではあったため、文書作成にあたっては改めて規格文書を読み込んで理解を深めることで、ミスのない書類作成を遂行しました。

【開発後の反響】

共同開発者であるフジタ医科器械様からは、Androidアプリケーション、規格文書の両者に対して高い評価をいただき、スムーズに納品をすることができました。完成したVIMMSは現在リリースに向けて準備中の段階ですが、すでに同社からは別の医療機器ソフトウェアの開発依頼を受けており、現在進行中です。VIMMSのように、複数の測定デバイスから同時に生体情報を受信し、Android端末で処理できるシステムは現在のところ世界的にも珍しく、導入後には日本国内の医療現場はもちろん、マレーシアやフィリピンのように医療アクセスに課題がある島嶼国などにおいてもニーズが見込まれており、遠隔医療の世界的な発展に寄与することが期待されています。

【本プロジェクトで活かされた当社の技術・知見】

(1)医療機器ソフトウェア開発の実績・ノウハウ

医療機器ソフトウェア開発においては、一般的なシステム開発技術だけではなく、「臨床現場での実用を理解した上での仕様策定」や「認証関連文書の作成」といった、この分野特有の知見が必要となります。当社は他社に先駆けて医療機器ソフトウェア開発に取り組んできた実績があるため、開発に必要な知見は十分蓄積されています。

(2)関連論文を読み解き、実装する技術力

VIMMSに搭載されている心拍数測定システムは、海外の論文で発表された複数の心拍数測定アルゴリズムを読み解き、実装することで完成しました。こうしたプロセスでは数学を含むアルゴリズム解析力や英文読解力が必要となり、一般的なソフトハウスでは対応できない場合も珍しくありません。ユーワークスには大学・大学院で情報工学の研究に携わったエンジニアが多数在籍しており、会社としても創業当初から、大学や研究機関からの依頼を受けて研究支援システムを開発してきた実績があります。こうしたバックボーンがあるため、関連論文をベースに、実例の少ない先端システムを実装できることは当社の強みの一つとなっています。

(3)先行事例がなくても諦めずに実装を考える粘り強さ

本プロジェクトで開発した「複数の生体測定デバイスを同時にBLEでAndroidアプリに接続するシステム」や「パケットロスが起きやすい無線環境でのリアルタイム心拍数測定システム」といったシステムは、国内でも先行事例が見られないもの。理論上可能ではあっても、性能に限界のあるタブレット端末で実用レベルのシステムを実装するためには、粘り強く実装方法を模索する必要がありました。その点、ユーワークスでは研究者支援用の専用システムを多数手がけた実績があり、これらはすべて先行事例のないオリジナルのシステムばかりです。難易度の高い実装も、プロフェッショナルとして粘り強く取り組み、完成させる。それがユーワークスのポリシーです。

【本プロジェクトの技術を応用できる分野】

医療機器ソフトウェア全般(規格文書作成を含む)

医療機器ソフトウェア開発においては、ソフトウェアの設計・実装だけでなく、医薬品医療機器等法で定められた規格に準拠するために、様々な文書を作成する必要があります。本プロジェクトで紹介した通り、ユーワークスでは医療機器ソフトウェアの企画・開発から規格文書作成まで、一貫して提供することが可能です。

既存製品の無線化

従来有線で接続していた機器を、Bluetooth等で無線化する技術・実績が当社にはあります。医療機器にかかわらず、デバイス同士を無線接続する開発はお任せください。

センサーの情報を読み取ってサーバ保管・表示するアプリケーション

本プロジェクトでは、心電計など複数のセンサーの情報を読み取り、サーバに保管すると同時にリアルタイム表示する装置を開発しました。医療用途の他にも、「センサーで取得した情報を手動入力する作業を自動化するシステム」など、製造・事務等の効率化に役立つ多様なシステムに応用可能です。